死と向き合うータイでの生前遺言(リビングウィル)の準備

死と向き合う

ニッピタ・プクディタナクル (Nippita Pukdeetanakul)著

それは火曜日の朝のことだった。友人と会う約束をしていたので、早く起きなくてはならなかった。会ったあとは、くつろいでコーヒーでも飲もうかと言うことだった。私たちは、日ごろの生活や、ここ数年の多忙な仕事のことなどを、互いに話していた。そのとき話題に上ったことこそ、みなさんに聞いてもらいたいと思う。この友人は、外国人である自分の父親が亡くなったことを話し出した。彼女は、国へ父親の葬儀のために帰ることとなったのだが、もう何年もタイに住んでおり、父親が住んでいた地域社会とは付き合いがなく、慣れない土地での葬儀の準備を短時間でできるのかが、大変気がかりなようだった。

彼女が父親の故郷へ到着したとき、この話はさらに興味深いものとなる。葬儀では、すべてのことが、すでに用意されていた。参列者へふるまう料理は届けられ、音楽は流れ、そこにいる全員が、何をどのようにしたらいいのか分かっているかのようだった。まるで、葬祭ディレクターでもいるかに見えた。実は、この葬儀を取りまとめて準備をした葬祭ディレクターはいたのである。それは、彼女の父親だった。そう、彼は、自分の葬儀で何をどうするのか細部にいたるまで、できる限りの準備をしていたのだ。自分の希望する葬儀になるよう、関係者にはあらかじめ声をかけていたと言う。

彼女の父親は、自分が亡くなる数年前に、料理の仕出し業者にじきじきに連絡を取り、葬儀のときの料理を頼んでいたと、葬儀後その業者は、彼女に語った。父親の事前準備のおかげで、友人の手間はずっと楽になり、彼女は、純粋に父親が今までしてくれた良い思い出にひたり、その死を悼み悲しむことができたのである。言うまでもなく、父親は、所有していた財産の分配方法や、土葬の仕方など、自分の死後何をどのようにやってもらいたいか、その詳細にいたるまで、取り決めていたのだ。

そのため家族は、葬儀の内容、火葬か土葬か、最後のときに何を着て旅立ちたいのか、などの心配をする必要がなかった。

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ほとんどの人は、自分の死後、葬儀のやり方やそれに伴う事柄は言うまでもなく、死について多くを語らない。しかし、死後の準備は、家族のためにあなたができる、もっとも価値のあることのひとつである。果たしてこの葬儀でいいのか? などの選択をする心配から、家族を解放することになる。もし、自分がタイで亡くなったとしたら、どうだろう? 家族は、見知らぬ異国の土地で、葬儀などすべてを取り行わなくてはならないのだ。またもし、配偶者が外国であなたの葬儀準備をするとしたら、それがいかに難しいことか、想像できると思う。友人の父親のように、前もって用意周到に行う時間がなければ、遺言書を作成してみたらどうだろう。葬儀や財産に関して、あなたがどのようにしたいか、少なくともその意思は、遺言書に書き記すことで家族へ知らせることができる。タイで所有している財産(これは、完全にタイ王国の法律下にある)に関する管財人を選任する裁判所の命令を家族が求めるときに、あなたが残した遺言書があれば、その手続きはずっと楽になる。そうするためには、インターネットで遺言書の無料の書式を探すとか、本屋でガイドブックを購入するとか、また、弁護士からアドバイスを得るなどいくつか方法がある。

私の顧客の一人は、深刻な健康問題を抱えていた。彼は私のところへやって来て、生前遺言(リビングウィル)の作成を頼んだのである。そのときの彼の態度は、とても現実的で前向きだった。生前遺言(リビングウィル)とは何か、わからない人のために説明すると、延命装置の使用に関する指示を自分自身で出すことができなくなった場合、どのような措置をとって欲しいかを、家族に知らせるための文書である。これは、家族が延命措置に対して確信がないとき、決断の決め手となり、とても価値のあることと言えよう。

遺言書は複雑な法律書類ではない。あなた自身で作成することもできる。ただ、タイでの遺言書は、その書式が厳格に決まっており、タイ王国の法律下において6つの書式がある。これに則ったものでなければ、その遺言書は有効ではない。タイの法律では、遺言者の年齢、特定の資産管理など、ある一定の条件を盛り込まなければならない。遺言書を有効なものにするために、法律上の決めごとを知り、考慮することが重要である。これらに関することは、弁護士に相談するのがいいだろう。 

・事務弁護士と法廷弁護士を務めるタイ人のニッピタ・プクディタナクル(Nippita Pukdeetanakul)は、現在JNP法律事務所(JNP Legal Co., Ltd.)の代表として勤務しているほか、エービーエーシー大学(ABAC University)で特別講師もしている。ニッピタへの連絡はnippita@jnplegalthailand.com まで。

さらに詳しい情報は

・JNP法律事務所(JNP Legal Co., Ltd.)は、公証人業務をはじめ、家族法(婚姻、離婚、婚前契約、遺産)、検認等に関わる諸手続き、遺言書、生前遺言(リビングウィル)などの文書・署名の認証業務も行っております。

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